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寛太郎のカイト日誌

内容はカイトに限らず種種雑多です。好みの選択は「カテゴリー」をご利用下さい。日本語訳は全て寛太郎の拙訳。 2010年10月18日設置

   
カテゴリー「理論」の記事一覧

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風の窓

"Wind-Windows (ウィンドウィンドウズ)" ・・・カイト入門書の最初にたいがい出てくる言葉だ。「風の窓」・・・誰が名付けたのか・・・なかなかお洒落な命名だと思う。平面的には半円だが、実際は半球の立体空間を現す。

動力源がこれほど広い範囲を、さまざまな高度や角度や速度で移動する風読みスポーツは他にない。よく教科書に出てくる風の窓は図のような半円だが、カイト翼は空中で回転させることもできる。いわゆるカイトループ。
windowindows.jpg
揚力は対気速度など幾つかの要素に比例する。コントロールバーを数センチ~数十センチ動かすだけで、カイト翼は数メートル~数十メートル動く。例えば、ライン長を20mとして頭上の安定状態から水平線まで動くと、およそ30m。

これに3秒間かかると秒速10m・時速36km。2秒だと時速50km余りの速度でカイトは空中を動く。静止時の対気速度(風の速度)が秒速5m程度でも、カイトの振り方次第で、この程度の速度は簡単に出せてしまう。

コントロールバーの前後左右数十センチの操作で、このカイトという飛行翼が生み出す力や向きは自在に変化する。なんとも自由な風読み世界だ。
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合力あれこれ

ある一点に複数の力が作用すると合力が生まれる。空の滑空でも海の帆走でもカイトサーフィンの走行でも、この合力の働き方を飲みこんでおくと後の話の消化が良くなる。

次に出てくる合力の話の前に、まずは「進行風」から。「進行風」は「見かけの風」と呼ばれることもあるが、「見かけは立派だが内容は低劣」などという世間の「見かけ」と異なり、カイト翼に実際的に働く風は単なる風向・風速ではなく、この見かけの風・進行風である。内容は図の通り。sinkou.jpg

翼に働く決定的な合力を作り出す2つの力(分力)は、空の場合は“揚力”と※“重力”、カイトサーフィンの場合は“揚力”と“踏ん張り力”。“踏ん張り力”なんて言葉は私しか使わないが、板の「水中側面抵抗」などと言うよりずっと分かり安いだろう・・・と思う。

まず空の話をする。「飛行翼がどうして滑空できるか」が分かれば、“重力”を“踏ん張り力”に置き換えるだけで「カイトサーフィンがどうして走行できるか」も即座に分かるからだ。goryoku.jpg

何にしても避けて通れないのが“揚力”の問題で、少し立ち入れば「揚力係数」だの「大気密度」だの「対気速度」だの「迎角」だの「なんとかの法則」だの、それぞれがそれなりに面白い話がゾロゾロ出てくる。

しかしここでは、図に示すように揚力は進行風と垂直方向に働くということさえ知っておけば充分。この揚力線と重力線を隣り合う辺とする平行四辺形の対角線が合力線になる。

そして、各線分の方向を変え目盛りを打って変数を与えてやれば、合力の“向き”と“強さ”が決まり、この力が存続する限り、翼は滑空を続けカイトサーフィンは走り続けることができるということになる。

※大空を自由に飛ぶという人類の長年の夢を実現するのに、常に大きな障害となるのが「重力」だ。ところが実は、重力がないと「浮遊」はありえても滑空や通常の飛行はありえない。18世紀フランスのモンゴルフィエは本格的な滑空や飛行の歴史以前に、バルーン(熱気球)による浮遊を成功させている。

どっちに走るか

カイトサーフィンで可能な走行方向のおおよそを図にするとこうなる。ヨットやウィンドと同じものである。
souhou.jpg
クローズドホールドは風上に向かって45度までという理論値があるらしいが、私はよく分からない。確かにディンギーやウィンドでフルダガー(ダガーボードを一杯に下ろして横流れを最小限に止めること)にすると、45度に近い角度まで上ることができる。

しかし、ダガーボード(センターボード)を持たないカイトサーフィンの、しかもツインチップのように小フィンで、板自体を水中に立てること(水中側面抵抗)で横流れを防ぐ方法ではせいぜい30度辺りが限界ではないだろうか。実際、GPSの走行軌跡を分析すると、私が使っているような当たり前のツインチップの場合、15度~20度辺りで上っていることが多い。

面白いのは、カイトサーフィンの用語では、アビームより風上に向かう場合は全て「アップウィンド」、風下に向かう場合は「ダウンウィンド」と呼び、航空分野での使い方と同様であるということだ。

また、揚力(動力)発生源をセール(帆)ではなく、ウィング(翼)と呼び、海陸風(かいりくふう)の海風をサーマルと呼ぶことなどをみても、このスポーツが海上のセーリング(帆走)分野からではなく、主にランドカイト(陸上での凧揚げ)分野から派生してきたものであることを伺(うかが)わせるに充分だ。

19世紀末、現在のハンググライダーに似た滑空翼で2000回以上の飛行データ(揚力と抗力の関係)を積み上げたドイツのリリエンタールの出発点も、それらのデータを礎(もと)にしながら安定した動力飛行を成功させたアメリカのライト兄弟の試みも、カイトの力学的分析から始まっているのである。多くの人が認めるように、カイティング(凧揚げ)は航空の歴史の原点というべきものでもある。

理論のはじめに

いつものように用語(言葉)の意味(定義)から始める。小学館の国語大辞典には、理論とは「ある物事に関して、原理・法則をよりどころとして筋道を立てて考えた認識の体系。また、実践に対応する純粋な論理的知識」とある。分かりやすい定義だ。特に「実践に対応する・・・」は大切だと思う。

私たちが生き行動する現実の世界や自然界は常に具体的なものだが、人間の頭はややもすると具体を離れて抽象に走る。実践を伴わない抽象的理論をいわゆる「空理空論」と呼び、それはそれで楽しい人間的営みかもしれないけれども、私はあまり好まない。

カイトサーフィンの実践(現実)は、水面を風よりも速く滑走し、時に波に乗り、時にジャンプし空中を滑空する。それに対応して板(ボード)や身体を動かすことで、様々な運動形態が生まれる。その多様性は、同じように風の力を利用する帆走スポーツや航空スポーツと比べて驚くほど豊かなもので、この多様性や自由度の大きさが、このスポーツ特有の醍醐味だと言って良いだろう。

さて、「カイトサーフィンはなぜ走るか」について・・・その手の入門書は巷間(こうかん)に数多いだろうし、WEB上にも丁寧なサイトがある。同じようなことをダラダラ書くのも退屈なことなので、まずは、ウィキペディアの該当項目をリンクする。 

ここではカイトサーフィンの概要や変遷、基本構造、流体力学上の揚力などについて詳しく解説してあるが、この著者は相当に謙虚な人と見えて、カイトサーフィンに働く力学はウィンドサーフィンなどでは使える従来の縦帆理論や揚力を中心とする航空理論では充分でないだけでなく当てはまらないことが多いとしている。

この姿勢は正しいと思う。彼はその例として角速度の問題や板の水中側面抵抗を挙げる。更に付け足すと、カイトサーフィンに働く力として無視できないものに、20m以上にも及ぶサスペンションラインの張力があり、一部のラムエア翼のように迎角(むかえかく・アタックアングルとかAoAとも言う。よく使う“ピッチ角”を正しく表現したもの。違いは後ほど説明)の変化が翼の曲率と連動して翼面積(投影面積)が変化するようなものもある。

これら考えられる全ての要素を同時に関係付けながら、カイトサーフィンの走行理論を組み立てることは実際上不可能だろう。ところが、こんなことをまったく知らなくても、着実に練習を重ねていけば、必ず、風よりも速く水上を走り、数メートルを超える高度をジャンプし滑空できるようになる。これが、「身体はやがて全てを理解する」ということである。
 
ピッチ角とは翼弦線と水平線の成す角度。迎角とは翼弦線と進行風の成す角度。翼弦線とはリーディングエッジの先端とトレーリングエッジの先端を結んだ直線。めんどくさい話だが、図で見れば一目で分かるので、近いうちに下手な絵を描いてUPする。↓(ウィキペディアの画像に手を加えた)

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プロフィール

HN:
寛太郎
性別:
男性
職業:
self-employed
趣味:
風読み・読書・自転車ほか多数
自己紹介:
瀬戸内の小島生まれです。学生時代は国際法を少し。数年間の堅い団体職の後、子供好きが高じて学習塾を、風が好きでスカイスポーツのイントラを、等と趣味と仕事が重なる生活を数十年経験しました。55歳引退計画に従って現在は基本的にフリーですが、相変わらずあれこれ忙しくしています。

生活方針は「無理をしないでゆっくりと」およそ中庸を好みます。東西を問わず古典思想の多くに心惹かれます。まずは価値相対主義を採用し事物の多様性を愛しますが、ミソとクソを同等にはしません。モノゴトには自ずと高低浅深があり、その判断基準は「大自然の摂理と全ての生命(いのち)の幸福」の中にあると思います。敬愛する人物は古今東西少なからず、良寛やB・ラッセルを含みます。

ナチュラリストと呼ばれることを好みますが、人間が創り出した道具類にも大きな関心を持ちます。人間語だけでなく、あらゆる生き物たちの「ことば」に興味が尽きることはありません。60~70年代ポップスや落語を聞いたりすることも好きです。

・著作:『空を飛ぶ・一つの方法』
・訳書:『リリエンタール最後の飛行』
・訳書:『個人と権威』

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