台風12号がもうそこまで来ていた。朝から雨。M君は早朝から一人で頑張っている。昼前に歯の治療を済ませて、堀江へ直行する。強風域に入るまでにまだ少し間がある。到着したらちょうどF君も出てきた。「風がどうにもならなくなるまでに早いとこ走っておこう」・・・と、1時間ほど。台風・雨風のみが持つ、そう優しくもないコンディションとお付き合いすることにする。
GPSの数値が30km辺りを超えると、顔に当たる痛い雨粒が目にも飛び込み視界も悪くなる。前にも書いたが、雨中カイトはほとんど苦行僧の世界だ。それでも海に出るのは、やはりこの種のスポーツが持つ特殊な魅力のためで、こんな雨天の叩きつけるような風も、晴天時の快い順風も、どこまでも壮大な大自然が現す変化相の一面にほかならない。
ここで少し、空力(空気力学)的な
風の力を復習しておこう。かなり味気ない定義によると、
風とは「空気の運動」ということだ。いろんな意味で不思議なこの混合気体が持つ性質の全てに触れることはできないので、カイトなどの翼に最も大きく影響する
空気(大気)密度について言えば、これは、「大気圧」と「温度」と「湿度」の3要素によって確実に決定する。これは物理法則だから、人の好みに関係せず、いくらか面倒くさい数式にこれらの変数を代入すると、正確な値として目の前に出てくる。
その空気の中に、時に野の花や磯の匂いや、場合によっては美女の香水や醜男(ぶおとこ)の加齢香などが含まれると、限りなく多様な彩(いろどり)を持つに至るのだが・・・それはともかく、気圧が高く、温度が低く、湿度が低いと
重い空気になり、逆に気圧が低く、温度が上がり、湿度が上がると
軽い空気になる。これがそのまま、風が生み出す力の大元(おおもと)の要因となる。
身近な具体例は以前この辺りでちょっと触れたことがある。
そして、この風が何かのモノに当たって生まれる作用力は、そのモノの(垂直)面積に比例し、風速に2乗比例する。カイトにも、あらゆるタイプの飛行翼と同様、
揚力という大小の力が発生するが、
面積比例・風速2乗比例の法則は変わらない。
だから・・・
風の変化を決して甘く見てはいけない。5m/秒の風が10m/秒になれば2倍ではなく4倍の力に変わる。これに単純にカイト面積の変更で対処しようとすれば、例えば16㎡を4㎡に落としてちょうど良いということになる。
さいわい、現在のまともなカイトには、トリム(ピッチコントロール)という便利な装置が付いているので、一枚のカイトで相当の適応風域をカバーできるけれども、トリムが働かない失速などの状態で、その変化をまともに受けると、この2乗比例の法則通りの結果が待っている。特にガスティな状況下では2倍程度の風速の変化は日常の範囲だ。多くの初心者(だけではない)が、陸上でカイトの上げ下ろしの際に遭遇する危険性の主な理由やここに有りということだろう。
2時前になって強風域に入ったらしく、雨は更に激しく、風は優に10mを超えはじめた。またしても、ずぶ濡れにしてしまったカイトを明日の西風で乾かせることを期待しながら、本日これまで。
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